とおるちゃんは かくれんぼ好き。
生きている時も、一緒に夜の『歩け歩け運動』とか自転車散歩とかしてても、いつもふいに闇の中に隠れて、さとこを不安にさせていた。 だから、夢の中でも、とおるちゃんを探していることが多い。 そして、さとこ、寝た時の室内着を夢の中でも継続して着ていることがあって、そんなときは、目が覚めてからも、どこからが夢で、どこまでが昨日の出来事の記憶なのか、余計に混乱するのよね。 氷点下の世界、溶けることのない氷の道。 朝日が反射して、銀色が眩しい。 登り坂も下り坂も、乗用車と歩行者が入り乱れたまま渋滞の行列を成していて、 ブレーキを力いっぱい踏んでいても ずるずると通行人に突っ込んで行く。 遥か前方に火の手が上がった。 もうもうと黒煙が立ち、連鎖的に爆発が起こる。 爆発音も、ざわめきも話し声もない 無音の恐怖。 すぐに衝撃波が来る。 誰も気づかないの? 列から外れたくても、横道がないし、Uターンもできない。 潰しちゃうよ。 悲鳴を上げたつもりが、誰も振り向かない。 場面は変わり、山の中のお寺みたいなテーマパークに居る。 山肌のそこここに 奇岩がそそり立つ。 にごくん、どこー? 終点が見えない広い公園墓地を、とおるちゃんを探し回る。 「はむちき」と、さとこを呼ぶ声に振り返った。 とおるちゃんだ。 山門がある。 階段奥の隠し部屋の見張り窓から、外の様子を見ているのを発見した。 同僚のみんなも探していて、こっちに向かってくるのが見える。 さとこも走っていき、くぐり戸の上の副え木と階段裏側に足と手を突っ張って、息をひそめ、戸が開くのを待つ。 インターホンが鳴った。 「はむちき、息するなよ」 みんな、とおるちゃんとさとこを探しだしてくれるかな。 またまた場面転換。 夕暮れの寺町を、とおるちゃんと歩いている。 静かな足音が二つ。 「ぴよ子のやつ、一人暮らしのアパートを出て、アンドーちゃんとルームメイトになって、一緒にこの辺に住んでいるらしいぞ。」 へー。そうなの? 通勤には近くなったけど、緊急車両が入れない古い町並み。 門毎に大きな石灯籠があるし、一方通行の先は行き止まりで迷路みたい。 火事とかダイジョブかな? 家々の並びに沿って、澄んだせせらぎの側溝がある。 軒先で将棋を指すおじいさんの姿。 小さい頃に返ったみたいだ。 あれ?とおるちゃんは? さとこ、独りだったっけ。 今夜は神社の祭り。 遠くに縁日のぼんぼりが見える。 一緒に行きたくて、砂利の空き地の臨時駐車場にとおるちゃんの車を探すが、見当たらない。 と、赤いオープンカーのシートに、赤ちゃんがひとりで眠っていた。 もう夕暮れだけど、パパとママは、直ぐに帰ってくるのかな。 気になって眠れない。 夜明けを待って、行ってみた。 もし誰も赤ちゃんに気づいてなかったら どうしよう。 居たとしても、もう手遅れだろう。 自分が砂利を踏む音に 急き立てられる。 朝もやを透かしてみると、昨日のオープンカーが一台だけ、夜露に濡れてそのままあった。 赤ちゃんもいる。 身動きしない。 目を閉じたまま、ぐっしょりと冷たい。 慌てて抱き上げ、青白い体を擦る。 ぐったりしてるけど トクトクと小さい鼓動が聞こえる気がした。 生きてるよ! 赤ちゃんを服の中に入れて体温で温めながら走る。 走りながら、ぴよ子さんのケータイ番号を探す。 さとこ、赤ちゃんなんか どうしてあげたらいいかわかんないよ。 カリカリ、車にあったかな? あ、それとも、脱脂綿でミルクを吸わせたらいいの? 目が覚めた。 急いでカリカリを探す。 あれっ? 猫の仔じゃあるまいし、たとえ歯が生えてても、カリカリは違うへん? さとこ、とことん、子供ちゃんは不得意分野みたいです。
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